マダニが媒介?重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

1)厚労省発表より

2月13日、厚労省が、

「新しいダニ媒介性疾患、重症熱性血小板減少症候群の症例が新たに2例確認された」ことを発表したと
メディア各社が報じました。
2012年秋、発熱や血小板減少等を呈したのちに死亡した患者が
新規ウイルスであるSFTSウイルスによる感染症であったと国内で初めて診断されたそう。
この患者は海外渡航歴のない成人だったとのこと。
これを機に、国内での情報提供と協力依頼を行ったところ、
先の報道にあるように新たに2例、ダニ媒介性疾患が確認された、
というのが発表の主旨です。
2)NEJMの記事より
この報道を目にして、「ネタみっけ!」と意気揚々とNEJMを検索したところ、
さっそく以下の論文がヒット。(不謹慎ですが、商売柄、ワクワクしちゃうんですよね~)
Fever with Thrombocytopenia Associated with a Novel Bunyavirus in China
Xue-Jie Yu, M.D., Ph.D., ら

N Engl J Med 2011; 364:1523-1532April 21, 2011DOI: 10.1056/NEJMoa1010095

このNEJMの記事は
厚労省が発表した
という資料にも参考文献に挙げられていました。
★中国における発症
2009年3月下旬及び7月中旬に、中国中東部 湖北省と江南省で
重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome SFTS)の出現が報告された。
原因は不明で、発熱、血小板減少、消化器症状、及び白血球数減少が主な症状。
致死率は30%。
患者の血液から(ヒト顆粒球アナプラズマ症の病原体)アナプラズマ・ファゴサイトフィルム
または他の病原体の検出を予想したが、細菌DNAやこの細菌に対する抗体も検出されず、
代わりに新しいウイルスが分離された。
これは、RNAシーケンス解析により
ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルスでありることが明らかとなり、
SFTSウイルスと命名された。
★中国における調査
2009年より湖北省と江南省から地域を限定し、SFTSを有する患者を同定する調査を実施した。
発熱、血小板減少、白血球数減少及び多臓器機能障害を呈する患者からSFTSブニヤウイルスを分離。
2009年7月から2010年9月の間に、
SFTSの症例定義に合致した中央及び北東部の入院患者241名のうち、
171名にSFTSブニヤウイルスRNAまたはウイルス特異的抗体あるいはその両方を検出した。
検査による確定例154名のうち148名が2010年5月から7月の間に発症した。
また154名のうち150名(97%)が農家であり、森や丘陵地に居住し、発症前に畑で働いていた。
家庭では、蚊とマダニが広く生息しており、5900匹の蚊を検査したが、ウイルスRNAは検出されなかった。
一方、患者の居住エリアの動物から集めたフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)186匹のうち
10匹(5.4%)に、SFTSV RNAを認めた。
Ver細胞培養やRNAシーケンス解析の結果、このマダニで認められたSFTSVは、
患者から得たサンプルで分離されたSFTSVと非常に近いが、同一ではないことが確認された。
このフタトゲチマダニはほとんどのほ乳類に寄生し、日本を含めた東アジアに広く生息している。
このNEJM掲載調査とは別の調査によると、
致死率は30%から10%代に下がっているようですが、
それにしても高い致死率。
そして身近なダニの介在が示唆されるだけに
ちょっと怖い気がします。
そして5900匹の蚊の検査って、すごい執念だなって思ったのですが
手分けしてやればこういうことってあるのかなぁ。。。
(3)CDCの資料
厚労省の資料には、SFTSが疑われる患者を診た場合には、
国立感染症研究所へ連絡をと書いてありますが、
肝心の国立感染症研究所のHPには厚労省発表記事と同じ情報しか掲載がなかったので、
アメリカのCDCをチェックしてみました。
2012年6月発表の調査記事がありましたので、簡単にご紹介。
このCDC資料によると、
感染経路はマダニだけでなく、感染者の血液や粘液に接触することによるヒトとヒトの感染も考えられるとしています。
2011年6月、山東省(人口55万人うち85%は農業従事者)の淄博市の10の村で
237名の健康な有志から血清サンプルを採取し、血清有病率を調査を実施。
エライザ法を用いて、SFTSVに対する総 IgG 抗体価を測定。
2名がSFTSVに対しセロポジティブであった。
この2名とも女性で、SFTSVの症状はなく、類似症状で入院経験もなく、
発熱やSFTSの症状のある患者との接触もなかった。
また134匹のヤギからも血液サンプルを採取したところ、111匹に抗体を認めた。
不顕性または比較的軽症のSFTSがヒトに発症する可能性はあるが、さらなる調査が必要と結論した。
結局よくわからない・・・ということなんですね。
先のNEJMの調査とこのCDCの調査はエリアが違うこともあって
結果は異なっていますが、もっと広範囲でサンプル数も多い調査が必要なようです。
なんて悠長なことを言っていたら、
日本での死亡例が出てきてしまった、という流れ。
(4)実際に発症すると・・・
さて、ここ日本でもマダニは生息しているため、
気になるのは日本における現在の状況ですね。
厚労省の発表によると、
確定診断には、血液などからのSFTSVの分離、同定、
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によるSFTSV遺伝子検出、
急性期及び回復期におけるSFTSVに対する血清IgG抗体価、
中和抗体価の有意な上昇の確認が必要としています。
これらの試験は国立感染症研究所が実施できるので、
38度以上の発熱、消化器症状を停止、血液検査所見で血小板減少、
白血球減少及び血清酵素の上昇が見られ、集中治療を要する患者を見た場合は
保健所か感染症研究所に情報提供をと呼びかけています。
また有効なワクチンはなく、基本的に対症療法しかないとのこと。
感染経路としてダニに噛まれることが有力なため、
予防策として、草むらや藪など、ダニの生息する場所に入る場合は、
長袖、長ズボン、足を完全に覆う靴の着用などがあるそうです。
そしてこのマダニは、屋内で普通に見られるダニ(コナダニやヒョウヒダニ)とは種類が異なるのですが、
森林や草地などの屋外だけでなく、市街地周辺でも見られるそうで、日本でも全国的に分布しているとか。
この疾患はまだまだわからないことがたくさんありますし、
日本でも今後患者数が増えてくるかもしれません。
また続報が出ましたら、ここでご紹介できればと思っています。