猛威をふるうノロウイルス、その構造とCDCの衛生プログラム

(※1/7に一部加筆修正し、再掲いたしました)

毎年冬になると流行するノロウイルスによる胃腸炎。
今季は大流行が懸念されており、
実際、日本でも海外でも多く発症が報告されています。

 

1)NEJMから
少し古いですが、11月29日発行のNew England Journal of Medicine (NEJM)にも
病態解説の記事として、免疫低下患者におけるノロウイルス胃腸炎について記載がありました。

Norovirus Gastroenteritis in Immunocompromised Patients
Karin Bok, Ph.D., and Kim Y. Green, Ph.D.
N Engl J Med 2012; 367:2126-2132November 29, 2012

 

この記事の中で、ウイルスの構造について、以下のように書かれていました。

ノロウイルスは小さく、エンベロープ※を持たない単一鎖RNAゲノムのウイルスである。
カリチウイルス科ノロウイルス属。
(注:※エンベロープとは、ウイルスにみられる膜状組織のことで、
脂質からできているため、エンベロープ持つウイルスは、
アルコール殺菌等しやすいらしい。(Wikiより))
ノロウイルス属は、6つの遺伝子グループ(GI~GVI)に分類されるが、
このうち人間の疾患に関与するノロウイルス株の多くはGIとGIIで、
さらに約30の遺伝子型に分かれている。
またGIIは、世界的なアウトブレイクに関与している株であることが分かっている。

ノロウイルスのゲノムは、7つの非構造タンパク質と2つの構造タンパク質をコードする。
RT-PCR法による診断解析では、高い配列保存性ゆえにRNAポリミラーゼ領域を標的にしている。
構造蛋白質1(VP1)は主要な構造タンパク質であり、
ウイルス様粒子(VLP)を形成するが(このVLPはワクチンとなる可能性があると目されている)、
ノロウイルスは、VP1の突出2(P2)領域内の組織血液型抗原(HBGAs)の糖類に結合し、
胃腸管の上皮細胞にウイルス侵入しやすくなる構造と考えられる。
(注:これは、糖類(糖鎖)は一般的にウイルスレセプターとして働く分子であるため、結合しやすくなるためと思う)

ヒトにおけるノロウイルスの感受性は、HBGAの対立遺伝子変異によって決まり、
ノロウイルス株には、それぞれに特徴的なHBGA結合プロファイルが認められる。
例えば、特定の遺伝的背景が感染に抵抗性を付与することがあるが、

これは対象(ヒト)が非分泌型として分類された場合で(=糖質が腸管上皮細胞の表面に発現していない対象である場合)、GI株つまりノーウォークウイルスに感染抵抗があるということになる。
※一部引用しながら、適宜追補しています。
非常に上手い構造を持つウイルスですね。
アルコールに強いから除去も難しい上に、胃腸管の上皮細胞に入り込みやすい形。
お腹が痛くなってきました。。。

2)感染したら・・・

では実際に私たちが感染した場合、
どのようにして診断が下るのでしょうか。
多く実施されているのは、RT-PCR法とよばれる診断方法です。
厚労省からも細かい指示書が発出されていますが、
糞便中のウイルスに対し、リアルタイムでポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) による増幅を測定し、
その増幅率を調べて、ノロウイルス遺伝子の定量を行ないます。
なぜこんなめんどくさいことをやるのかといえば、
ノロウイルスは細胞培養ができないんですね。
シャーレ等で培養して、それで試薬による判定みたいなことができない。
でも、ウイルスの塩基配列が分かっているため、遺伝子の型を見極める上記の方法で
ノロウイルスの型が出てくれば、ノロウイルスに感染していると確定診断が下ることになります。
その他に、ちょっと面白いところではCTを利用した診断方法もNEJMで紹介されています。
免疫低下患者(特に移植を受けた患者)を対象にした場合として、
移植片対宿主病(GVHD)なのか、ノロウイルスに感染しているのかを判別するために、
CTによる検査を実施するそうです。
判定のメカニズムは、割と単純で、
ノロウイルスに感染すると、 小腸に限定的な腸壁浮腫を生じますが、
これは小腸のサイトメガロウイルス(注:免疫低下した人が感染すると肺炎を引き起こす恐れがある)
感染やGVHDを有する患者にはほとんど認めないため、
浮腫の有無をCTで確認し、浮腫があればノロウイルスと診断できる、としています。
免疫低下患者には色々な病気に感染しやすい状態ですが、
もしGVHDを発症した場合は、早急な処置が必要になるので、
ノロかGVHDかの判定を速やかに行えることはとても有用だと思います。
3)CDCのクルーズ船衛生プログラム
この記事を用意している間に、
カリブ海のクルーザーで集団感染か?のニュースが入ってきました。
CDC(米国疾病予防管理センター)発表によると、これから本格的な調査が入るとか。

 

さすがは、感染症といえばCDC。
様々な取り組みをしているのは知っていたのですが、
クルーズ船を対象にした衛生プログラムがありました。

 

このCDCの取り組みにも少し注目してみましょう。

 

CDCによると、
このVSPでは、クルーズ産業において、
クルーズ船上の胃腸管疾患の発生、伝播、および蔓延の予防とコントロールを行うため、
公衆衛生法のもとで運営されているそうです。
運用マニュアルも準備されていますが、全部ご紹介はできないボリュームなので、
エッセンスのみを簡単に箇条書きします。

 

★具体的な手法
乗客への情報開示:
船上のノロウイルスについて(日本語もあり)リーフレット、
アウトブレイク情報、アウトブレイクに関する調査結果、
定期的な衛生査察についてなど、
広く啓蒙的な情報を開示しています。

 

クルージング産業への働きかけ:
パブリックミーティングの開催、
アウトブレイク予防および対応手順書の策定、
情報開示;査察(実施、結果発表)、
ガイドライン等出版物の公表、アウトブレイク情報など

 

トレーニング:
ビデオトレーニングとセミナートレーニングの2種類。

 

査察
13名以上が乗船し、海外に出航する船を対象に定期的に実施(プログラウ対象船は年2回、抜き打ち)し、スコア化の上公表される。
逸脱部分は修正義務があり、もし査察基準を落第してしまうと、
修正期間を与えられるが、航海を推奨しないと勧告される場合も。

 

査察内容を見ると、水(飲み水、プール等)、食事(食品、食堂等)だけでなく
施設(個室や共同エリアの衛生等)にも言及した内容になっていました。
このようにしっかりとした査察をしても、
カリブ海クルーズのような惨事はおこるもの。
船では衛生管理を怠るとパンデミックがあっという間に起こるという教訓を
乗客としても忘れてはいけないですね。
私も乗船時には除菌アルコールなどを持ち込もうかな。
まぁ豪華客船に乗る機会は当面ないと思いますが・・・。
4)日本では・・・
一方、日本ではどのようなノロウイルスの予防、コントロールがとられているのでしょうか。

 

厚労省では、注意喚起を促すページが用意されていますが、
ノロウイルスを食中毒の範囲で考えているのがわかります。
感染症情報センターでは、
ノロウイルス感染症ページが用意されており、
検出情報から遺伝子型についての詳細ページ、
一般および医療従事者向けの予防と対応に関するページもありました。
内容的には、厚労省よりも専門性が高いという印象です。

いずれも、船舶など大勢の人が集まり、かつ孤立するような場所での
予防策はとられていないようでした。

以上です。
次回の更新もどうぞお楽しみに!
(※1/7に一部加筆修正し、再掲いたしました)